研修報告レポート

 

「人間とは何か」私は知りたい。そのテーマについて彫刻の「皮膚」を研究することで、近年の制作を行ってきた。

彫刻の「皮膚」は、素材とそこに係わる作家の手業からなる。材に対し独自のアプローチを続ける彫刻家大平實氏の制作と環境に学ぶことで、自身のテーマについてより深く考察し、現地制作を通して新たな表現の可能性を模索する。

また、多くの人種が共存するアメリカに暮らすことで「皮膚」を超えて存在する、普遍的な人間像について思考する。

大平氏のスタジオの隣にブロンズ彫刻を制作するスタジオがある。「普段とは違うことをした方がいい」という大平氏のアドバイスと紹介もあり、そのスタジオで作業の手伝いをしながら、ブロンズ彫刻を制作できることとなった。

原型の制作・型取りから、蝋原型→ボンドとセラミック粉末による鋳造型制作→ブロンズ鋳造→割出し→修正→仕上げまで自身で行うことで、制作の過程から得られた新たな形態や素材の可能性を感じることができた。

スタジオ近くの路上に落ちている踏みつけられた針金を拾い集め、手を加えることなく画面に配置し、蝋を垂らす。

その後、表面の蝋を鑿や彫刻刀で削り出す技法で、レリーフ状の平面作品を制作した。

平日の午前中は大平氏のスタジオにて木彫制作、午後は隣のブロンズスタジオにて、手伝いをしながらブロンズ彫刻を制作、朝と夜には自宅で平面作品制作やドローイングを行うことで一年間制作を続けた。


週末は、アメリカの自然や文化を体感するべく、毎週のように中古のカローラで小さな旅に出た。

乾いた大地、雄大な自然、窓を開け放った車から見える景色や風の匂いが、今も目の前にあるように心に残っている。

10月の始めにニューヨークへ出掛けた。1011日の小旅行。

2001年の同時多発テロで標的になったワールドトレードセンター跡に、美術館が出来ていた。ビル崩落の原因となった火災の熱により変形した巨大な鉄柱や鉄筋も展示されている。

私はそれを見て、怒りや悲しみではなく、どうしても美しさを感じてしまう。

メトロポリタン美術館では、夥しい数の展示品の中で、争いや長い時の過程で、首が飛ばされ、鼻を折られ、手足を失った像ばかりを見つめ続ける自分に気づく。私が求めている美しさとは、暴力や狂気を孕んだモノ、もしくはその痕跡なのか。

一年間のアメリカでの研修が、私のこれからの制作にどんな影響を与えるのかは正直分からない。

しかし、将来私が少しでも魅力的な作品を作ることが出来たなら、それは間違いなくこの研修の成果である。

今回の滞在で、制作においても生活においてもお世話になった大平實・恵千子夫妻をはじめ、ご協力頂いた全ての方々に心から感謝しています。本当にありがとうございました。

2015年1月 松岡 圭介